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AI時代、コンタクトセンターは何を捨て、何を残すべきか

  • 3月31日
  • 読了時間: 6分

更新日:6月14日

〜「効率化のツール」で終わらせないための経営の問い〜




「これ、前は30分かかっていたんですよ」。あるコンタクトセンターを訪ねたとき、若手社員がAIを活用して構築したシステムを見せながら、そう笑顔で話してくれました。確かに、作業は数分で終わるようになっていました。


生成AIの活用が進み、現場の効率化は確実に前進しています。要約や情報検索は瞬時に完了し、応対中のリアルタイム支援も実用的な水準に達しつつあります。「やれる人が、やれることから始める」。その段階はすでに多くの組織で経験されているのではないでしょうか。

ただ、ここで一つ、立ち止まって考えたい問いがあります。


効率化によって空いた時間で、何をしているでしょうか。その時間から、新たな価値は生まれているでしょうか。そして、経営が期待している改善や改革のゴールは、現場で起きている変化とつながっているでしょうか。




ボトムアップの限界と、その先


現場主導のAI活用は、スタートとしては正しい選択です。ツールに触れ、使い方を覚え、業務に適用してみる。その過程で「これは使える」「ここには向かない」という実感が生まれます。この段階を経ずに全社導入を進めても、現場との乖離が広がるだけです。


ただ、ボトムアップには構造的な限界があります。やれる人がやれることから始めると、活用は個人の能力やモチベーションに依存します。成果もまた、個人の業務範囲に閉じたものになりやすい。「Aさんは使いこなしているけれど、Bさんはまだ触っていない」。こうした状態は、効率化の「島」を生みますが、組織としての変化にはなりにくいのです。


組織として、会社としてAIの価値を引き出すためには、経営がどんな課題を設定し、どんなゴールを示すかにかかっています。「AIを活用せよ」は指示であってゴールではありません。何のために活用するのか。その答えが曖昧なままでは、現場は自分なりに頑張るしかなく、結果として「効率は上がったが、組織としては変わっていない」という状態に陥ります。


 「どうありたいか」が、捨てる・残すを照らし出す

では、何を捨て、何を残すかは、どのように決まるのでしょうか。ここで強調したいのは、それは技術的に決まるものではない、ということです。


「AIで代替できるから捨てる」「人手が必要だから残す」。一見もっともらしい基準ですが、これだけでは判断を誤ります。なぜなら、同じ業務でも、企業が顧客とどんな関係を築きたいかによって、その価値はまったく変わるからです。ある企業にとっては効率化して手放すべき定型対応が、別の企業にとっては顧客との関係を支える大切な接点かもしれません。


つまり、捨てる・残すの判断には、その手前に「自社は顧客にとってどんな存在でありたいのか」という問いがあります。どんな関係を築きたいのか。どんな価値で選ばれたいのか。この経営としての「ありたい姿」が光となって初めて、何を手放し、何を守るべきかの輪郭がはっきりと浮かび上がってきます。


逆に言えば、ありたい姿が定まっていないまま捨てる・残すを議論しても、判断は技術論やコスト論に流されていきます。「できるから捨てる」が積み重なった先に、自社らしさまで一緒に手放してしまう。そんなことも起こりえます。光のない場所では、何が大切なものかは見えないのです。


三つのラインで、「捨てるもの」と「残すもの」を整理する


ありたい姿という光を持ったうえで、コンタクトセンターを三つのラインに分けて考えると、それぞれのレイヤーで何を捨て、何を残し、何を目指すべきかの解像度が上がります。


まず、顧客と直接向き合うフロントラインです。

ここで捨てるべきは、定型的な問い合わせへの対応を個人の記憶や経験に頼り続けることです。FAQ的な応答、手続きの案内、情報の検索。これらはAIが確実に代替できる領域であり、人が担い続ける合理性は薄れています。一方で、残すべきは人間にしかできない判断です。顧客の感情を受け止めること、文脈を読み取って柔軟に対応すること、複雑な状況で優先順位をつけること。こうした能力は、AIでは置き換えられません。フロントラインのゴールは、人とAIの役割分担を設計し、人が本来の力を発揮できる領域に集中させることです。


次に、業務設計や品質を担うオペレーションラインです。

ここで捨てるべきは、データや言語、ナレッジが個人や部署に閉じたまま運用されている状態です。同じ事象を3種類の言葉で表現していたり、ナレッジがベテランの頭の中にだけ存在していたりする状態では、どれほど高度なAIを導入しても力を発揮できません。ある金融機関では、FAQ自動応答の正答率が想定を大きく下回った原因が、部署ごとの用語の不統一にありました。残すべきは、業務の全体像を俯瞰し、構造を設計する力です。AIの活用度を左右するのは、この設計の質です。オペレーションラインのゴールは、AIが機能するための「土壌」を整えることであり、これは技術の問題ではなく組織設計の問題です。


そして、意思決定を行うマネジメントラインです。

ここで捨てるべきは、コンタクトセンターをコストとしてのみ管理するという従来の位置づけです。AIによって顧客の声を構造的に分析・活用できるようになったいま、コンタクトセンターは「知の集積点」としての可能性を持ち始めています。残すべきは、その可能性を経営の意思決定に接続するという視座です。マネジメントラインのゴールは、コンタクトセンターの役割そのものを再定義し、経営戦略の中に位置づけ直すことです。


経営が示すべきもの


三つのラインそれぞれにゴールを設定できたとき、AI活用は「効率化のための道具」から「組織変革の起点」へと意味を変えます。逆に言えば、このゴール設定がないままでは、どれだけ現場が頑張っても、効率化の成果は点として散在するだけで、線にも面にもなりません。


AIは問題を解決する前に、「何が問題だったのか」を突きつけています。データが整っていないこと、言語が揃っていないこと、プロセスが設計されていないこと。これらは従来から存在していた課題ですが、AIによって明確な制約として可視化されるようになりました。この制約に向き合うのは、技術ではなく経営です。


自社のAI活用は、いまどの段階にあるでしょうか。ボトムアップの実験段階でしょうか、それとも組織としてのゴールが設定された段階でしょうか。そして何より、その判断の手前にある「自社は顧客にとってどうありたいのか」という光は、はっきりと灯っているでしょうか。


もしまだ答えが明確でないのであれば、まずは「ありたい姿」を言葉にし、その光のもとで三つのラインを整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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