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「属人化」は、本当に悪なのか

  • 4月6日
  • 読了時間: 5分

更新日:6月14日

「その人にしかできない」を排除すると、何が失われるのか——個の力と組織の耐性のあいだで




「属人化を解消しなければならない」。組織運営の文脈で、これほど疑われることなく使われてきた言葉も珍しいかもしれません。業務改善の提案書にも、DX推進の企画書にも、まるで前提のように書かれています。属人化は悪であり、解消すべきもの。多くの方がそう感じているのではないでしょうか。


でも、少し立ち止まって考えてみたいのです。「この人にしかできない」という状態は、本当にすべて悪なのでしょうか。


あるコンタクトセンターに、特定の製品トラブルに関しては社内の誰よりも的確に対応できるオペレーターがいました。顧客からの指名も多く、難しい案件が回ってくるのもいつもその人です。周囲からの信頼は厚く、チーム内では「困ったら○○さんに聞こう」が合言葉になっていました。


これは「属人化」でしょうか。たしかに、定義上はそうです。でも同時に、これは長い経験と学習の蓄積が生んだ「個の力」でもあります。




属人化はなぜ生まれるのでしょうか


属人化は、怠慢から生まれるわけではありません。むしろ、その人が真剣に仕事に向き合い、経験を重ね、工夫を積み上げてきた結果として生まれることが多いのです。顧客対応のように個別性が高く、マニュアルだけでは対処しきれない領域では、現場の判断力がサービスの質を支えています。


標準化されたプロセスだけでは拾いきれない「あいまいな領域」を引き受けてきたのが、こうした個人の力です。属人化には、組織が明文化できなかった価値が凝縮されている側面があります。


つまり属人化とは、「組織が構造化しきれなかった領域を、個人が肩代わりしてきた結果」とも言えます。だとすれば、それを単純に「悪」と断じてしまうのは、少しもったいないのではないでしょうか。


本当の問題は、属人化そのものではありません

では、何が問題なのでしょうか。属人化そのものではなく、属人化がもたらす「副作用」です。


まず、その人が休めなくなります。「自分がいないと回らない」という責任感が、有給取得や長期休暇を妨げます。体調を崩しても出勤してしまう。本人の善意が、本人を追い詰めていきます。


次に、引き継ぎが極めて難しくなります。長年かけて蓄積されたノウハウは、その多くが言語化されていません。異動や退職のタイミングで初めて「あの人がいないと何もわからない」という事態が顕在化します。ある家電メーカーのサポート部門では、ベテランの退職に伴い、10年以上蓄積されてきた暗黙のナレッジが一夜にして失われました。


さらに、視野が狭くなるという問題もあります。特定の領域に習熟するほど、その人の判断基準は過去の経験に固定されていきます。環境が変化しても、かつてうまくいった方法を無意識に踏襲してしまう。周囲も「あの人に任せておけば大丈夫」と思い込んでしまい、チェック機能が働かなくなります。


そして最も見落とされがちなのが、組織としてのリスクです。特定の個人に依存した業務は、その人がいなくなった瞬間にブラックボックスになります。これは品質リスクであり、事業継続のリスクでもあります。


属人化の「反対」とは何でしょうか


属人化を解消しようとするとき、私たちがまず思い浮かべるのは「構造化」や「標準化」です。マニュアルを整備する、プロセスを定義する、ナレッジを共有する。いずれも大切な取り組みです。


ただ、ここに落とし穴があります。構造化を進めることで、個人が持っていた柔軟な判断力や、文脈に応じた対応力まで一緒に失われてしまうことがあるのです。すべてをマニュアルに落とし込もうとした結果、「マニュアル通りにしか動けない組織」になってしまう。属人化の問題を解消したつもりが、別の問題を生んでしまうわけです。


属人化の反対は、「誰でもできる状態」ではないのかもしれません。むしろ、「個の力が活きる状態を、組織として支えられている」ことではないでしょうか。個人の専門性や判断力を尊重しながら、その知見を組織に還元し、一人に過度な負荷がかからない仕組みをつくる。この両立こそが、目指すべき姿だと考えています。


経営として、どう向き合うか


属人化に対する経営の向き合い方として、いくつかの視点を挙げてみます。


一つ目は、「何を構造化し、何を属人のままにするか」を意思決定することです。すべてを標準化する必要はありません。ただし、どの領域を意図的に個人に委ねているのかは明確にしておく必要があります。意図された属人化と、放置された属人化はまったく異なります。


二つ目は、属人的な知見を「共有可能な形」に変換する仕組みをつくることです。完全なマニュアル化が難しくても、対応の考え方や判断の軸を言語化するだけで、組織としての耐性は大きく変わります。生成AIの登場により、こうした言語化のハードルは以前よりも大幅に下がっています。


三つ目は、「その人がいなくても回る状態」と「その人がいるからこそ生まれる価値」を分けて考えることです。前者は事業継続の問題であり、後者は競争力の問題です。この二つを混同してしまうと、属人化の議論は「人を減らせるかどうか」というコスト論に矮小化されてしまいます。


個の力と組織の耐性を、どう両立させるか


属人化は、排除すべき「悪」ではなく、組織が向き合うべき「現実」です。個人の力に支えられてきた価値を認めつつ、その力が一人に集中しすぎないよう、組織として設計していく。この問いは、カスタマーサポートに限らず、あらゆる組織に共通するテーマではないでしょうか。


自社の中で、「この人にしかできない」状態になっている業務はどこにあるでしょうか。それは意図的な選択でしょうか、それとも結果としてそうなっているだけでしょうか。そして、その状態は持続可能でしょうか。


もしまだ答えが明確でないのであれば、まずは現状を棚卸しするところから始めてみてはいかがでしょうか。




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