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やる気や主体性を求める空回りは、なぜ起きるのか

  • 8 時間前
  • 読了時間: 5分

マインドを変えろと言う前に——構造が人を動かしている現実に、目を向ける


要点

やる気や主体性は求めて得られるものではなく、それを生む構造を先に用意すべきものです。有期雇用やコスト管理といった構造が「そこまで求めていない」というメッセージを発しているのに、言葉だけで意識変革を求めても空回りします。マインドを変えたいなら、判断の余地や成長機会といった環境を先に整えることが必要です。


「もっとやる気を持ってほしい」「主体的に動いてほしい」「当事者意識を持ってほしい」。カスタマーサポートの現場に限らず、マネジメント層からこうした言葉が出てくる場面は少なくありません。言っている側に悪意はありません。むしろ、現場を良くしたいという思いから発せられていることがほとんどです。


でも、こうした言葉は現場に届いているでしょうか。

多くの場合、届いていません。聞こえてはいるけれど、響いていない。そして経営は「なぜ伝わらないのか」と悩み、さらに強いメッセージを発する。現場は「また言っている」と感じる。この空回りは、なぜ起きてしまうのでしょうか。




構造が発しているメッセージに、気づいているでしょうか


経営が口にする「やる気」「主体性」という言葉と、組織が実際につくっている構造のあいだには、しばしば大きな矛盾があります。


多くのカスタマーサポートの現場では、オペレーターは有期雇用で採用されています。人件費は変動コストとして管理され、業務量に応じて調整される前提です。提供される教育は業務遂行に必要な最低限のものにとどまり、キャリアパスの天井は入社時点からほぼ見えています。


これらは経営判断として合理的です。コスト管理の観点から正しい選択であり、否定すべきものではありません。ただ、こうした構造が現場にどんなメッセージを送っているかには、目を向ける必要があります。


有期雇用は「いつでも契約が終わりうる関係」を意味します。変動コストとしての管理は「必要がなくなれば調整される対象」という位置づけです。最低限の教育は「業務以上のことは期待していない」と受け取られる可能性があります。見えているキャリアの天井は「ここから先はない」という信号です。


こうした構造の上で「やる気を持て」「主体的に動け」と求めることは、言葉と環境が矛盾していることになります。言葉は「期待している」と言い、構造は「そこまで求めていない」と言っている。現場が混乱するのは当然ではないでしょうか。


働く側の「合理性」に目を向ける

ここでもう一つ見落とされがちな視点があります。雇用される側もまた、合理的に選択しているということです。


有期雇用で働くことを選んでいる人の多くは、自分のライフスタイルや家庭の状況、責任の重さと給与のバランスを考えた上で、その働き方を選んでいます。「ちょうどいい距離感」で働きたい人にとっては、限定された責任範囲は魅力でもあります。フルコミットを求められないからこそ、その仕事を続けられている方もいます。


そこに対して「もっと主体的に」「当事者意識を」と求めるのは、本人が選んだ前提を一方的に書き換えようとする行為にもなりかねません。


経営側は「成長の機会を提供している」と考えていても、現場では「同じ給料で、求められることだけが増えている」と感じているかもしれないのです。


プレゼンティーイズムという違和感


健康経営という文脈から、プレゼンティーイズムという概念が話題に出る時があります。出勤しているけれどパフォーマンスを十分に発揮できていない状態を指す言葉です。健康経営の文脈で語られることが多く、生産性の損失として数値化されることもあります。


パフォーマンスを十分に発揮できる環境を整えること自体は、大切なことです。ただ、この概念には少し立ち止まって考えたい部分もあります。


プレゼンティーイズムの議論の根底には、「同じ給与で、もっとパフォーマンスを上げてほしい」という企業側の期待があります。健康管理やストレス対策はその手段として位置づけられています。従業員の健康を大切にするという目的と、生産性向上という目的。この二つは重なる部分もありますが、完全に一致するわけではありません。


働く側から見れば、「自分のパフォーマンスを会社に管理される」ことへの違和感は自然な感覚です。体調や気分の波は誰にでもあります。それを「損失」として可視化され、改善を求められることに、心から共感できるかどうか。また、管理する側としても、人をそのような視点で管理することへの気持ち悪さを抑えることができるかどうか。


この問いは、経営にとって思った以上に重要です。なぜなら、共感のないところに主体性は生まれないからです。


マインドではなく、仕組みから変える


やる気や主体性は、求めて得られるものではありません。それは、環境と構造の結果として自然に立ち上がるものです。


もし本当にオペレーターに主体性を求めるのであれば、主体的に動ける構造を先につくる必要があります。判断の余地を与える、成長の機会を設計する、貢献が認識される仕組みをつくる、キャリアの展望を示す。こうした環境が整って初めて、「主体的に動きたい」という気持ちが生まれます。


逆に、構造はそのままで意識だけ変えようとするアプローチは、研修やスローガンに多額の投資をしても成果が出ない、という結果につながりがちです。それは従業員の問題ではなく、構造の問題です。


あるいは、もう一つの選択肢もあります。主体性を前提としない運用設計です。全員がフルコミットすることを前提にするのではなく、様々な関与度の人が共存できる仕組みをつくる。これもまた、一つの合理的な選択です。


大切なのは、求めるものと提供する環境が一致していることです。


言葉と構造を、一致させる


自社のカスタマーサポートでは、現場にどんなメッセージを発しているでしょうか。そして、構造はそのメッセージと一致しているでしょうか。


主体性を求めているのに、判断の余地を与えていないということはないでしょうか。やる気を期待しているのに、応えても報われない構造になっていないでしょうか。意識変革を掲げているのに、変えているのは言葉だけということはないでしょうか。


もしその答えがまだ明確でないのであれば、言葉ではなく構造から見直すことが、最初の一歩になるかもしれません。

 
 
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